トイレの行列対策、便器を増やせないときは?国交省ガイドラインが挙げた「乾式清掃」という一手

商業施設の男子トイレ。小便器の下に黒い御影石の汚垂石が敷かれ、奥に利用者の行列が見える。見出しは「トイレの行列は、掃除でも決まる」

2026年6月、国土交通省が「トイレの便器数に係る基準と適用のあり方に関するガイドライン」を公表しました。テーマはトイレの行列問題です。駅や商業施設を管理されている方にとっては、日ごろの悩みがそのまま国の文書になったような内容です。この記事では、そのガイドラインで示された方針を施設管理の目線で整理し、「便器をこれ以上増やせない建物では、何ができるのか」を考えます。カギになるのは、意外にも毎日の清掃のやり方でした。

目次

2026年6月、国がトイレの行列について方針を出しました

まず、どんな文書なのかを短く整理します。国土交通省が2026年6月12日に策定した「トイレの便器数に係る基準と適用のあり方に関するガイドライン」です。対象は不特定多数の人が使う施設のトイレ(公共トイレ)で、読み手として想定されているのは施設を設計する人・管理する人です。つまり、まさにビルや店舗を預かっている側に向けて書かれています。

示された考え方の柱は2つです。ひとつは、利用者の構成やトイレを使っている時間(占有時間)の変化をふまえて、男女を問わず快適に使える基準にすること。もうひとつは、待ち時間が平等になるように、利用者が男女ほぼ同数の施設では、女性用の便器の数を男性用(大便器と小便器の合計)以上にするという原則です。

この原則が出てきた背景には、国が2025年8〜9月に行った実態調査があります。駅・道の駅・空港・旅客船ターミナル・バスターミナル・スタジアム/アリーナでは、平均すると男性用の便器数が女性用と同じか、それより多い状態でした。行列が起きている場所と、数の配分が合っていなかったわけです。

いちばん効くのは「便器を増やす」。でも、建っている建物では難しい

ガイドラインは、行列を減らすためにいちばん効果的なのは便器を増設することだとはっきり書いています。ここに異論のある管理者の方はいないと思います。問題は、それができる建物が限られることです。

この点についても、ガイドラインは正直です。増設をはばむものとして、面積の制約・予算の制約に加えて設備上の制約を挙げています。便器を増やすには給排水の配管や換気のダクトを直す必要があり、それを建築基準法などの関係法令に合わせるのが難しい場合がある。合わせられたとしても、改修に大きな費用がかかる場合がある——と書かれています。そのうえで、既存の建物のトイレについては建て替えなどのタイミングで改善を図ることが求められるとしています。

言いかえると、今すでに建っている建物では「便器を増やす」がすぐには使えないということです。では、建て替えの日まで行列を眺めているしかないのか。そうではありません。ガイドラインには、便器を増やす以外の打ち手もいくつか並んでいます。その中に、清掃の話がありました。

国が挙げた一手が「乾式清掃を基本に」でした

ガイドラインの「メンテナンス方法の改善」という項目に、こういう趣旨のことが書かれています。トイレの清掃には大きく2つのやり方がある、と。

  • 湿式清掃(しっしきせいそう)=水を流して、ブラシなどでこすり洗いをするやり方
  • 乾式清掃(かんしきせいそう)=水を流さず、モップなどで拭き取るやり方

湿式清掃には、ほこりを舞い上げない、こびりついた汚れを落とせる、という利点があります。一方で課題として挙げられているのが、清掃に時間がかかること、そして清掃のあいだ、床が乾くまで利用を止めなければならないことです。ここが行列の話につながります。

そしてガイドラインは、近年は汚れが付きにくい床材の開発が進み、湿式清掃をしなくても汚れを落とせるようになってきたことをふまえて、「行列改善の観点からは、トイレの清掃方法は乾式清掃を基本とすることが考えられる」としています。国が、行列対策の一つとして「水で洗うのをやめて、拭き取りを基本に」と言っているわけです。

例えば、レジが1台しかないお店を思いうかべてください。そのレジを、1日に何度も「清掃中」の札を立てて止めていたら、そのたびに行列が伸びますよね。トイレも同じです。もともと数が足りていないところで、清掃のたびに床が乾くまで使えない時間ができれば、行列はそのぶん長くなります。拭いて終わりにできれば、止まる時間が短くなる——これが国の言っていることの中身です。

ちなみにガイドラインは別の箇所でも、新設の際に十分な面積を確保することは清掃のしやすさの向上につながり、日常的な混雑を抑えるのに有効だと書いています。「掃除のしやすさは、混雑対策である」という見方が、2か所で示されているということです。

湿式と乾式、現場ではこう違う

湿式清掃(水で洗う)乾式清掃(拭き取る)
やり方水を流し、ブラシなどでこすり洗い水を流さず、モップなどで拭き取る
得意なことほこりを舞い上げない。こびりついた汚れを落とせる短い時間で終わる
課題時間がかかる。床が乾くまで使えない汚れが付きにくい面であることが前提
行列への影響清掃のたびにトイレが止まる時間が長い止まる時間が短くてすむ
湿式清掃は床が乾くまでトイレを使えず行列が伸びる、乾式清掃は止まる時間が短く行列が短くなる、という流れの比較図
清掃のやり方が、トイレの行列をつくっている

こうして並べると、乾式清掃に切りかえない理由はないように見えます。ところが現場では、そう簡単にいきません。引っかかるのは、乾式清掃の「課題」に挙げた一行です。乾式清掃は、「汚れが付きにくい面であること」が前提になっている。裏を返せば、拭くだけでは落ちない面が残っているかぎり、水を流す清掃から離れられないということです。

乾式に切りかえられない、いちばんの理由

清掃の担当者が水を流したくなるのは、拭くだけでは落ちない場所があるからです。そして男子トイレでその代表になるのが、小便器の下に敷かれた黒っぽい石です。これは汚垂石(おだれいし)という、飛びはねを受け止めるための石で、最初から汚れるのが役目として置かれています。

やっかいなのは、この石の汚れが「表面」ではなく「中」に入っていくことです。石には目に見えない細かい穴があり、飛びはねた成分がそこに入り込んで、内側で固まっていきます。だから表面をいくら拭いても色が戻らない。落ちないから水を流してこする、それでも落ちないからもっと強い洗剤を使う——こうして湿式清掃から抜け出せなくなります。汚垂石の仕組みと、掃除で落ちる範囲については汚垂石(おだれいし)とは?読み方・トイレにある理由・黄ばみが落ちない訳で詳しく説明しています。

例えば、スポンジに醤油を1滴たらしたところを想像してください。表面をティッシュで押さえても、中にしみた色は取れませんよね。汚垂石で起きているのは、これとまったく同じことです。表面を拭く道具では、中に入ったものには届きません。

汚垂石の断面図。そのままの石は細かい穴に成分が入り込んで内側で固まるためモップが届かないが、フィルムを貼ると汚れがフィルムの上で止まり拭けば取れる
汚れが「表面」ではなく「中」にあるから、拭いても戻りません

さらに、こすればこするほど石の表面には細かい傷が増え、その傷に次の汚れが入りやすくなります。掃除をがんばるほど、次が早く汚れるという逆転が起きてしまうのです。トイレの汚垂石の黄ばみ・尿石はなぜ落ちない?では、この悪循環と、そこから抜ける考え方をまとめています。

そしてもう一つ、現場が抱えている事情があります。人手不足です。清掃にあてられる人も時間も減っていて、「毎日ていねいに掃除する」という前提そのものが、だんだん成り立たなくなっています。落ちない汚れを気合いで押さえこむやり方は、人が十分にいて初めて回るものでした。

だとすれば、向かう先は「がんばって落とす」から「汚れがたまらないようにする」へ、ということになります。人を増やせないなら、掃除そのものを軽くしておく。国が乾式清掃を挙げた背景にも、同じ現実があります。

「汚れているから使われない」——小便器の回転率という視点

もう一つ、ガイドラインを読んでいて目にとまったデータがあります。男性が小用のときに、小便器ではなく個室(大便器)を選ぶ理由を尋ねた調査です。

  • 「小便器の汚れが気になるから」…約6%(オフィスのトイレを対象とした調査より)
  • 「小便器は跳ね返りで服が汚れるから」…約20%、「小便器が汚いから」…約8%(別の調査より)

数としては大きくありません。ただ、ガイドラインは別の項目で、小便器のあいだについたてを設けると「回転率の高い小便器の利用を促す効果が期待できる」と書いています。小便器は個室より回転が速いので、そちらが使われるほど行列は短くなる——という考え方です。

この見方をそのまま当てはめると、こうなります。汚れて見えることで小便器が避けられれば、回転の速い設備が使われず、行列は伸びる。清潔感は気分の問題だけでなく、混雑の問題でもあるということです。

例えば、フードコートで席がたくさん空いているのに、テーブルがベタついている席だけ最後まで誰も座らない、ということがありますよね。設備としては空いているのに、使われない。トイレの小便器でも、同じことが起きています。

「拭くだけで戻る面」をつくる、という考え方

ここまでを整理すると、既存の建物でできることが見えてきます。便器は増やせない。だとすれば、止まる時間を短くし、使われない設備をなくす。そのために必要なのは、拭くだけできれいに戻る面をつくることです。

ガイドラインが挙げているのは「汚れが付きにくい床材が開発されてきた」という材料そのものの進歩です。ただ、床材を入れ替えるとなれば、それは改修工事になります。いま張ってある石やタイルを残したまま、同じ状態に近づける方法もあります。それがKPF(カミプロテクションフィルム)のような保護フィルムです。

透明なフィルムで表面を覆うと、飛びはねはフィルムの上で止まります。石の中に入らないので、汚れが固まる場所そのものがなくなります。日々の手入れは拭き取りが中心になり、石の色や模様はフィルムを通してそのまま見えます。すでに黄ばんでいる場合は、先にクリーニングで色味を整えてから貼れば、きれいな状態からの再スタートができます。

汚垂石を守ると、清掃の現場はここまで変わる

乾式清掃に切りかえられない理由が「拭いても落ちない面が残っていること」だとすれば、その面を先に守ってしまえば話は変わります。トイレでいちばん手強いのが、小便器の下の汚垂石です。

フィルムを貼ると、飛びはねは石ではなくフィルムの上で止まります。石の穴に入らないので、尿石が固まる場所そのものがなくなります。その結果、毎日の清掃で起きていたことが、一つずつ減っていきます。

清掃の現場で起きていたこと汚垂石を守ったあと
拭いても落ちないので、水を流して洗う拭き取りで済むので、床を濡らさない
床が乾くまでトイレを止めておく止める時間が短くなり、止めずに済む場面も出る
強い洗剤とブラシで、力を入れてこする中性洗剤とペーパーで、軽く拭くだけ
こするほど石の表面が荒れ、次の汚れが早く入る表面が荒れないので、汚れの入りようがない
掃除したのに、においが石の中から戻ってくるにおいのもとが、石に届かない

例えば、学校の机に敷いてある透明のマットを思い浮かべてください。マットの上では字を書いても消しゴムのカスが出ても、机そのものには何も残りません。汚垂石も同じで、守りたいのは石の見た目そのものではなく、「汚れが石に触れない」という状態です。清掃の担当者の方からは、力を入れてこする作業がなくなったこと、洗剤のにおいがきつくなくなったことを、変化として挙げていただくことが多いです。

もう一か所、小便器の前の「荷物置き棚」

同じトイレの中に、もう一か所あります。小便器の前、ちょうど目線の高さにある荷物置きの棚です。スマートフォン、かばん、書類、飲みかけの缶——利用者は必ずここに何かを置きます。

置かれるのは、かばんの底の金具、腕時計のバックル、鍵、缶の底。どれも硬くて小さいので、置いて滑らせるたびに細かい傷が入ります。そして棚の傷は、床の傷より目立ちます。目線の高さにあって、照明が真上から当たるからです。汚れていなくても、すり傷で光が散ると古びて見えてしまいます。

やっかいなのは、その先です。傷の溝に汚れが入ると、拭いても取れなくなります。これは汚垂石で起きているのとまったく同じ構造で、拭き取りで済んでいたはずの面が、少しずつ「落ちない面」に変わっていきます。

ここも、先に守っておけば話は簡単です。傷はフィルムの上で止まり、棚そのものには届きません。汚れも表面に乗るだけなので、拭けば落ちます。例えば、新品のテーブルに買い物袋をドンと置くとき、少しためらう感じがありますよね。あの「気をつかう」を、道具の側で引き受けてしまう考え方です。汚垂石と荷物置き棚、この二か所を押さえるだけで、トイレの清掃の負担はかなり軽くなります。

トイレまわりで同じように守れるのは、汚垂石やアルコールスタンドの下といった部分的な床、小便器前の荷物置き棚、洗面台・洗面カウンター、そして脱衣室・洗面所・トイレの鏡です。判断の目安は「使ったあとに乾く場所かどうか」。常に濡れたままの浴室やシャワー室の中のような場所には向きません。なお、このガイドラインが特定の工法を推奨しているわけではありません。国が示したのは「拭き取りで済む状態にしていこう」という方向であって、その実現の仕方はいくつもあります。フィルムはその一つです。

施設のご担当者様へ:今日からできる確認リスト

大きな工事の前に、手元で確かめられることがあります。

  • 清掃で「水を流している」場所はどこかを書き出してみる。そこが乾式に切りかえる候補です
  • そのうち「拭いても落ちないから水を流している」場所はどれかを分ける。ここが本当の課題です
  • 清掃でトイレを止めている時間を一度だけ計ってみる。1日あたりの合計が、行列に効いている時間です
  • 小便器のうち、いつも使われない台がないかを見る。汚れや見た目が理由なら、直せる可能性があります
  • ガイドライン本体は国土交通省のサイトで公開されています。報道発表のページから本文と概要が読めます

よくあるご質問

Q. このガイドラインには、従わなければならない義務がありますか?
A. 基準そのものを定める法令ではなく、基準を作る側や施設を設計・管理する側に向けた考え方を示した文書です。とはいえ国が方針を出した以上、今後の改修や新設の判断材料として参照される場面は増えていくと考えられます。

Q. 便器を増やさずに、清掃のやり方だけで行列はなくなりますか?
A. なくなるとは言えません。ガイドラインも、増設がいちばん効果的だとはっきり書いています。清掃の見直しは、増設できない建物で、今すぐ着手できる打ち手という位置づけです。

Q. うちのトイレの床が石なのかタイルなのか分かりません。
A. 継ぎ目が規則正しく並んでいればタイル、1枚の大きな板であればほぼ石です。石の場合は種類によって使ってよい洗剤が変わるので、そこも一緒に確認するのがおすすめです。写真を1枚お送りいただければ、見当をつけてご案内できます。

Q. 女性用トイレの改修を検討しています。そのときに一緒にできますか?
A. できます。むしろ改修のタイミングは相性がよく、きれいになった直後の面を守るのがいちばん効果的です。洗面まわりについては洗面台・洗面カウンターの水垢や化粧品汚れもあわせてご覧ください。

まとめ:行列の話が、掃除の話につながっていた

国が2026年6月に示したのは、便器の数の考え方でした。ただ、その中には増設できない建物のための現実的な打ち手も書かれていて、その一つが「乾式清掃を基本に」という提案です。水で洗う清掃はトイレを止めます。止まる時間が短くなれば、行列も短くなります。

そして乾式に切りかえられない最大の理由は、拭いても落ちない面が残っていることです。汚垂石のように、汚れが中まで入り込んでしまった場所がそれにあたります。落とす掃除から、汚れを触れさせない仕組みへ。その切りかえができれば、清掃はぐっと軽くなり、トイレが止まる時間も短くなります。

お見積もりについて

施設の規模や床の素材、今の状態によって、ご提案できる内容は変わります。現地を拝見したうえで、できること・できないことを正直にお伝えします。写真だけでのご相談も歓迎です。お問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

建材保護フィルム「KPF」の公式ブログです。大理石・人工大理石・木製家具のお手入れや保護について、現場の実例をまじえて分かりやすくお届けします。実際の施工写真はInstagram(@shoyo_maintenance)でも公開中。

目次